「待つ」「移る」「遅れる」という体験は、技術とともに少しずつ姿を変えてきた。ここでは、待機と遷移、そして移動を巡る設計や研究の節目を、年代を追って並べる。応答時間の心理を整理した論文から、待機を示すカーソルの記号、自動改札や直接操作の登場まで——通り抜ける時間がどう扱われてきたかをたどる年表である。各項目は、本サイトの記事ともゆるやかに対応している。
-
1952
ヒックの法則
W・E・ヒックが、選択肢の数が増えるほど決定に要する時間が延びることを示す。経路や選択肢の提示設計に通じる基礎となった。
-
1959
ダイクストラの最短経路アルゴリズム
エドガー・ダイクストラが最短経路問題の解法を発表。後の乗換案内や地図ナビゲーションの土台のひとつとなる。
-
1967
自動改札機の実用化(北千里駅)
オムロンが関わった自動改札機が大阪の北千里駅に設置される。人が歩いて抜けるあいだに判定を返す機構が、都市の流れを変えた。
-
1968
ミラー、応答時間の論文を発表
ロバート・ミラーが人間と機械の対話における応答時間の境目を整理。後年の0.1秒・1秒・10秒という目安の源流となる。
-
1971
ネットワーク経由のメール
レイ・トムリンソンがコンピュータ間でメッセージを送る仕組みを実装。返信を待つという新しい待機の文化が芽生える。
-
1983
『人間とコンピュータの相互作用の心理学』
カード、モラン、ニューウェルが、人間の知覚処理がおよそ百ミリ秒の単位で働くことなどを論じ、体感速度研究の基盤を築く。
-
1984
Macintosh の待機カーソル
初代 Macintosh が、処理中を示す腕時計型のカーソルを採用。待機を視覚記号で伝える発想が広く普及していく。
-
1985
『待ち行列の心理学』
デヴィッド・マイスターが、手持ち無沙汰の待ちや終わりの見えない待ちが長く感じられることを整理。待機設計の古典となる。
-
1993
Mosaic と逐次表示の時代
画像つきウェブブラウザ Mosaic が公開される。画像が上から少しずつ現れる逐次表示が、待つことを前提とした閲覧体験を生んだ。
-
2001
回転する待機カーソル
Mac OS X が、処理中を示す回転式のカーソル(通称ビーチボール)を採用。待機を示す記号が、より動的なものへと変わる。
-
2007
慣性スクロールと直接操作
iPhone の登場により、指で画面をじかに動かす慣性スクロールが普及。状態の移り変わりが身体の所作と結びついた。
-
2010年代前半
スケルトンスクリーンの広まり
内容の輪郭を先に見せる手法が「スケルトンスクリーン」として広く知られるようになり、スピナーに代わる待機表示として定着していく。
-
2014
マテリアルデザインの公開
グーグルがマテリアルデザインを発表。画面遷移のモーションに時間と緩急の指針が与えられ、移り変わりの設計が体系化された。
こうして並べてみると、待つ技術の歴史は、待ち時間そのものを短くする歴史であると同時に、待っていると感じる時間の質を扱う歴史でもあったことが見えてくる。記号で進行を示し、輪郭で結末を予告し、所作で移り変わりを身体化する——通り抜ける時間への向き合い方は、いまも更新され続けている。